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今秋の締めは霊山へ行く。



 序文


11月7日,立冬前日。今秋の締めくくりに,福島県の霊山へ紅葉を見に行った。今回のサイクリングは,9月の1,000kmで共にゴールしたアムーナ*乗りのIさんとご一緒した。

第一目的地は霊山。霊山は福島県伊達市に位置する標高825mの山。かつては山岳信仰の対象だったようで,低いながらもゴツい岩肌が,修験の地っぽい。毎年秋には,山で見事な紅葉をが見られる。

第二目的地は,Iさんのご提案から文知摺観音という芭蕉ゆかりの寺も入れた。百人一首の”みちのくの しのふもちすり たれゆえに~”の歌が詠まれた地でもあるらしい。実際に訪れると,境内の紅葉が美しい,趣のある寺だった。

サイクリングの終着地は福島市の北部にある飯坂温泉。温泉に浸かって,福島名物の円盤餃子を食べて輪行で仙台に帰宅する行程。自画自賛だが,紅葉,歴史,食べ物の三点揃った完璧な行程だったと思う。

 *アムーナ(AMVNA):仙台に工房を構える”まつもとサイクル”のブランド名


 行程概説



今回の行程。まずは,仙台市を国道4号沿いの県道で南下して船岡手前まで移動。次いで阿武隈川沿いに角田,丸森と来て福島県の柳川まで。その後,国道115号で東へ移動して霊山の麓まで緩やかに登る。標高550mほどの,霊山の登山口に着いたら,徒歩に切り替え。

霊山こどもの村側の登山ルートから,コースガイド通りに霊山をぐるっと一周。紅葉と岩の山肌を見ながらトレッキング。

下山後は国道115号で西へと移動。国道115号と阿武隈川が交差する手前で文知摺観音を見物。その後,北西方向に進んで飯坂温泉へ。温泉と食事の後,JR伊達駅まで移動して輪行で仙台に帰宅。

自転車で120kmほど,徒歩は10kmほどだろうか。観光地でたくさん写真を撮っていると,一日の移動距離はこのくらいがちょうどいいと思う。


 行程記録

    
  ・1. 阿武隈川を下る
  ・2. 紅葉の霊山を登る
  ・3. 文知擦観音を観る
  ・4. 飯坂温泉を歩く





1. 阿武隈川を下る

1.1 朝霧の阿武隈川を往く

朝5時くらいに仙台市を出発。11月の頭,明け方の仙台市内はなかなか冷えた。国道4号の高速道路感が怖いので,4号に並走する県道39号で仙台を南下。阿武隈川に合流する船岡手前まで移動。

船岡の一目千本桜の並木が並ぶ堤防上を行き,角田,丸森へ進む。明け方の白石川,阿武隈川は,朝霧に包まれることが多いけど,この日もかなり深い霧だった。角田市では霧というよりも霧雨の中を進んでいるようだった。

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角田のコンビニで休憩後,霧が晴れて阿武隈川の向こうから,うっすら太陽が見えてきた。堤防上の道をIさんと写真を撮りながら進む。

途中で交わしたカメラ談義でかなり盛り上がったなあ。二人ともソビエトのコピーライカを使っていた経歴があるとは驚いた。かつて自分が使っていたカメラはFED5。弁当箱並にでかく,重たかった。だが,機械式カメラで写真のイロハを学べたのは良い経験になったと思う。Industar-55mmはモノクロでこそ真価を発揮した。銀塩時代が懐かしいけど,もう戻れない。


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丸森町を経て,国道349号の阿武隈川沿いを行く。しばしば写真を撮って休憩。山肌にかかる朝霧がきれいだった。この日は,国道349号のトンネルを回避するため,国道わきの側道を行った。


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道の駅”やしまや”で小休憩。猫をもふって気力を回復。しかし,この猫は眠かったのか,あまり愛想がよくなかった。売店では,Iさんから焼きおにぎりを驕っていただいた。ありがとうございます!


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阿武隈川沿いに路線があるけど,こんな所に電車が通るのかな?とか話していたら電車が走って来た。珍しい物を収めるように,急いで撮ったので構図もへったくれもない。

こんな感じで,阿武隈川沿いを緩~く下りながら柳川まで移動した。


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2. 紅葉の霊山を登る

2.1 国道115号で霊山の登山口へ

阿武隈川を下ったら,柳川を越えて,国道115号へ乗り換える。そして,相馬方面に向かって霊山の麓まで移動。途中,柳川のミニストップで補給休憩。イートインでIさんと1,000kmの苦労話をして記憶を確かめあった。柳川から,保原,霊山に向かう国道115号の道は,緩やかな登り坂。これから軽い登山があるので,ペースは抑えて行った。

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国道115号の緩やかな登り道を行くと,遠くに霊山の山容が見えてくる。今年も紅葉がきれいに色づいている。霊山の登山口前は11%程度の急勾配。登山口手前で,お互いの自転車に乗り換えて少し走ってみた。Iさんの方がフレームサイズが小さいので,自分の体格では少し窮屈だったが,同じアムーナなので,乗り味は特に変わりは無いと感じた。


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見事な紅葉の中を進む。天気は曇りだが,しっとりした雰囲気も良い。


2.2 紅葉と霧の霊山を登る

紅葉見物のシーズンだからか,登山口の駐車場では,地元伊達市の人たちが出店を並べて賑わっていた。自転車を駐車場の一角において,トレッキングの準備。前回来た時は,新緑の霊山だったが,今回は紅葉の山を行く。自分の装備はSPDに小型のショルダーバッグ。コースガイド通りに行けば,霊山は2時間半ほどで巡れる。

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天気は曇り。明け方同様,霧の雰囲気も悪くはないだろうと,登山開始。

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霊山は始めにガッと登って,後はだらだら尾根筋を進む感じの道。

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尾根まで昇りつめれば景色が開ける。


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鉄梯子を上って岩の上で写真を撮る。自分はよくやりがちだけど,こういう場でファインダーをのぞいたまま,身体を動かすのは極めて危険だ。Iさんはしっかり安全マージンを取って撮っていた。

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やろうと思えば岩場から紅葉の中に滑り込める。
注)落ちれば死ぬ。
たびたびIさんから「危ないよ。」と突っ込まれる。でも岩場の前まで出てしまう。これは性分だろう。自覚はあるので,死なないように注意している。

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デスマッチの舞台。天狗の相撲場


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断崖絶壁からの眺め。うっすら霧がかった山肌の景色が水彩画のようできれいだった。モノクロで撮れば水墨画のようにも見える。やはり画になる景色だなあ。


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護摩壇を越える手前から,山に霧がやや深くかかり始めた。


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一本楓

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霞む木々

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霊山の城跡

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霧中

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緋色の影絵

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落葉

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中盤以降,霧に覆われて視界がよくなかった。しかし,霞む紅葉の雰囲気は最高だった。新緑の時期も気持ち良かったけど,紅葉の山肌も良いなあ。両方見られてとても満足。Iさんも紅葉と霧の山に満足されているようだった。

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3. 文知擦観音を観る

霊山を下山後,国道115号で西へと進み,飯坂方面へと向かう。その途中,国道4号線に合流する数km手前で,奥の細道の一路で登場する,文知摺観音を見物していく。

3.1 芭蕉の足跡

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日が傾き始める頃,文知摺観音堂に到着。

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昔の先客は松尾芭蕉。煙霞痼疾,旅の達人。
たびたびスパイ疑惑がかけられるのが不憫だ。しかし,非常な健脚で各地を巡っているので,疑われるのも無理はない。自分もサイクリング中(深夜)に職質された経験があるので共感できる。

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境内は見事な紅葉


3.2 文知摺石


 ”陸奥の しのふもちすりたれゆゑ に みたれそめにし われならなくに”
  河原左大臣

古今集,百人一首 の一句。小学校の時,百人一首を暗唱して,この歌を知ってはいたが,歌のルーツがここにあるとは全く知らなかった。文学に造詣のあるIさんは,奥の細道を読んで文知摺石の章が難解だったので,この寺に来て,由来をみたいとのことだった。

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歌の”もちすり”は福島県で作られる摺り衣という染布のことで,石の上に布を置き,忍草という草で染めるものらしい。

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石の模様がランダムなので,”もちすり”の模様も乱れる。
先の歌は思い人を考えて乱れる自分の心境を”もちすり”に重ねているらしい。”乱れ”,”染め”が”もちすり”の縁語に対応する。なんだか古典の授業っぽいけど,自分は文学知識が皆無なので,間違っているかもしれない。

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文知摺石
確かに,この石の模様を転写したら衣の模様はランダムになりそう。


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文知摺石は,石というよりも岩というべきサイズだ。

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生涯健脚祈願

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観音堂

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源融(みなもととおる)と,その思い人の虎女の墓。源融は先の歌の作者,河原左大臣のこと。
二人の関係は,
 ① 源融,東北へ出張
 ② 源融,福島で虎女に惚れて交際
 ③ 源融,上司の命で本社に戻るので破局
という感じだ,たぶん。歌は別れ際に詠んだのだろう。結局,源融が虎女を連れ帰るようなことはなく終わったらしい。死別の後だが,ここには二人の墓が並べられている。転勤族は身を固めるのが難しいんだなあ,と思う。すまじきものは宮仕えか...

石の説明を見て,Iさんは納得いっているようだった。自分も昔覚えた和歌の意味とルーツが分かったので大満足。しかし,百人一首を覚えていた小学校時代は,男女にこんな複雑な関係があったなんて,考えも及ばないわな。

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境内を見物後,東北の仏像を描いた水彩画?だったかな,を展示している資料館を見物。そういや,子供の時は絵を描いてばかりだった。車の絵を描きまくったけど,デッサン力はなかなか上がらない。老後に,足が壊れて動き回れなくなったら絵を再開しよう。

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さて,和歌のルーツをたどったり,色々な資料を見られて満足したので,最終目的地の飯坂温泉に向かおう。

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4. 飯坂温泉を歩く

福島市北部にある飯坂温泉。自分が来るのはこれで3回目くらいか。Iさんも何度か訪れていたらしい。飯坂温泉には多くの公衆浴場がある。今日はどこの温泉にしますかね?と迷ったが,無難に最古参の鯖湖湯を選んだ。

4.1 鯖湖湯で汗を流す

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夜の温泉街と鯖湖湯の雰囲気がとても良い。地元民に交じって湯をいただく。鯖湖湯の湯は結構熱めで45℃前後だが,飯坂温泉の中では一番ぬるい部類に入るとか。熱めが好きな自分にはちょうどいい。Iさんも熱めの湯は大丈夫なようだった。


4.2 照井:円盤餃子

温泉の次は腹を満たすべく,飯坂温泉街にある餃子屋,照井に向かう。意外にも福島は餃子が有名であることを,Iさんの紹介で知った。

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照井は円盤状に並べて焼いた餃子が看板食。開店と同時にお客が押し寄せるので,自分たちが行った時は行列待ちだった。名簿に名前を書いて,Iさんと談笑しながら待った。3,40分くらいして,ようやく順番が回ってきた。

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最初に頼むのは円盤餃子。かなりの数だが,小ぶりなのでパクパク食べられる。ビールとかが欲しくなるけど,これから伊達駅まで行くので水で我慢。ジューシーというよりも,さっぱり系の餃子。いや,しかしこれは美味い。

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肉野菜炒め。
座敷の横で頼んでいる人のを見ておいしそうだったので自分たちも注文。鉄板でジュ~っと焼かれた野菜炒めのにおいが食欲を誘う。刻まれたチャーシューが野菜と一緒にソースで炒められている。柔らかいチャーシューとシャキシャキ感の残った野菜が絶妙に合う,文句なしに美味い。

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締めは那須御養卵の味玉が入ったラーメン。さっぱりしたスープと濃厚な味玉が素晴らしい。自転車,登山そして温泉で乾いた身体にしみわたって美味い。

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は~,食った食った。
結論:照井は美味い。運動と風呂の後は尚のこと美味い。

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 跋文

サイクリング,登山,歴史観光,温泉そして食事の後は帰るだけ。飯坂温泉から東へ向かってJR伊達駅まで10km足らずをのんびり行った。

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伊達駅から輪行。東北本線で仙台まで。朝から盛りだくさんの一日だったので,電車内ではほぼ爆睡。気が付いたら仙台に着いていた

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仙台駅で自転車を組み立てて,Iさんとお別れ。「また,一緒にどこかへ行きましょう」と約束して各々の家路へと向かった。

今回のサイクリング,紅葉の霊山を中心に福島県の名所・史跡を巡った。トレッキングを含めた複合行程だと,予定の見通しが悪いので,サイクリングは120km程度に収めた。実際のところ,写真を撮りつつ,各地で観光するならば,100km程度で十分満足できるなあ,と実感。

自転車は単純に走るだけでも楽しいけど,今回の行程を通して,本来,自転車は移動手段なのかなあ,とも感じた。1,000kmを走って以降,自転車の走り方,楽しみ方をどうするか,色々迷ったりもしているこのごろ。


 謝辞

週末に100kmのサイクリング,霊山への登山をご一緒していただきましたIさん,ブルベとは違いますが,長い行程にお付き合いいただきありがとうございました。誰かと走ると,目的地,見どころ,食べ処が増えて,サイクリングがより一層,面白くなると感じました。また,走る機会がありましたらよろしくお願いします。